卓越大学院プログラムで「エネルギー循環型の次世代農園モデル」の確立を目指す
卓越大学院プログラムで「エネルギー循環型の次世代農園モデル」の確立を目指す
~農業で出るゴミを、農業ハウスの燃料に活用~
大学院生物システム応用科学府 食料エネルギーシステム科学専攻(卓越大学院)
一貫制博士課程3年 (博士一年相当) 須藤 達也さん
生物システム応用科学府 食料エネルギーシステム科学専攻で微粒子工学の研究を続けながら、卓越大学院プログラム(以下?卓越大学院※)で、持続的な食料生産が可能な「エネルギー循環型の次世代農園モデル」の確立を目指す須藤達也さんにお話を聞きました。
※ 中国竞彩网卓越大学院プログラム(プログラム名:「超スマート社会」を新産業創出とダイバーシティにより牽引する卓越リーダーの養成)
“新産業創出”と“ダイバーシティ”を特色とし、農学と工学が協創し、民間企業や海外研究教育機関等と協力して、“先端工学技術によって実現する農業流通革命に資する新産業創出”を一つの課題テーマ例とし、様々な研究分野における研究テーマを自由度高く設定して高度博士人材の養成に取り組む。卓越大学院プログラムを履修する学生は、工学府?農学府?生物システム応用科学府など、自身の所属する大学院の課程に加えて、卓越大学院プログラムの課題に取り組んでいる。
ウェブサイト: http://www.wise.tuat.ac.jp/
どんなプロジェクトに取り組んでいますか?
世界人口の増加により、食料資源の需要がさらに高まることが見込まれていて、食料の安定生産を実現する必要があります。そんな中、天候の影響を受けづらい「農業ハウス」は、食料の安定生産を実現できる園芸手法として注目されています。ただ、農業ハウスでは、生育環境を制御するために化石燃料由来のエネルギーが多く使われます。そのため、高い光熱費によって経営が圧迫されてしまうこと、燃料として石油を大量に使用することで社会の脱炭素化の流れに反していることの2点が課題となっています。
また、農業の別の課題として、収穫される部分以外の茎や葉、根などが「農業残渣(ざんさ)」と呼ばれるゴミになっていることも問題視されています。農業残渣は堆肥として活用されることもありますが、残渣が多すぎると堆肥にする方法だけでは消費しきれず、処理に高額なコストが生じています。
そこで、私たちは、農業残渣をエネルギー源として活用し、農業ハウスの維持に必要な燃料費の削減と、農業残渣の処理の両方を解決するビジネスモデルを確立したいと考えています。具体的には、農家から農業残渣を回収し、自社工場で「残渣ペレット」を製造し、暖房設備のある農業ハウスの燃料として販売するというビジネスプランです。
農作物は色々ありますが、今回は主にトマト栽培での農業残渣をターゲットとしています。トマトは、関東近郊に栽培農家がいくつか存在している作物で、1年中スーパーマーケットで売られている身近な野菜です。トマト農家の方にインタビューした際、葉や茎などの残渣が大量に発生して処理に悩んでいるという声を聞き、トマト残渣に着目することに至りました。また、チーム内に稲を研究しているメンバーがいることから、稲わらを容易に入手することができるため、稲作での農業残渣にも注目しています。そこで、今回のプロジェクトでは、稲わらとトマト残渣の両方を使って、検討を進めていく予定です。
プロジェクトの経緯と、目指すところを教えてください。
このプロジェクトは、卓越大学院プログラムの「グローバル卓越リーダー概論」の授業の中で生まれました。授業の当初はこのテーマにそれほど思い入れがあったわけではないのですが、実際にやりはじめてみると、「農学」と「工学」の融合という農工大の強みを最大限に活かすことができ、突き詰めるとおもしろいテーマだと感じました。また、世界の食料問題という大きな課題に挑めることにもやりがいを感じています。
2020年9月から2021年2月に「グローバル卓越リーダー概論」の授業で構築した事業モデルのたたき台は、2021年2月から7月まで「SVA Innovation 研修」の授業を通じて、改良を重ねました。米国SVA Innovation社は、スタンフォード大学に起源を持つSRI Internationalからスピンアウトした企業で、シリコンバレーを中心として、イノベーション創出やビジネスプランニングの方法論などを指導している会社です。SVA Innovation社の講師の方々と英語での議論を重ねて、世界に通用するビジネスプランの方向性に修正していきました。
今年度から卓越大学院では学生のアイデアに対して経費を出してもらえる「農工協創プロジェクト」が始まり、全部で9つのチームが活動しているのですが、私たちもその中の1つに選ばれたことで、経費を獲得することができました。獲得した経費を活かして授業で考えた農業モデルを学術的に意味のあるものにできればと考え、現在は事業モデルの妥当性を検証するための実験的な検討をプロジェクト内で実施しています。
写真は、府中キャンパスの農場で行ったペレットの燃焼実験の様子です。実際に残渣ペレットを製作して、着火時間や燃焼持続時間、灰発生量等の諸情報を得るために、まずは比較のための木質ペレットのデータを取りました。これから、残渣ペレットを使った燃焼実験も行い、その結果をビジネスプランに反映していきたいと考えています。
活動の目標としては、「石油依存型の食料生産から脱却した持続可能な食料生産モデルを創出する」という学術面でのゴールと、「学生が事業展開や社会実装を実施するための知見を獲得する」という教育プログラムとしてのゴールがあります。農工協創プロジェクトは、経費を獲得してビジネスプランで考えたアイデアを形にするプロトタイプ(試作品)を製作することができる、卓越大学院の新しいプロジェクトです。ビジネスプランの構築からプロトタイプ製作までを、自分たちが主導で取り組むことで、農工大生がアイデアの事業化?実装化に携わる際のロールモデルになれればと考えています。
プロジェクトのメンバーについて教えてください。
メンバーは、私を含めて4人です。全員、卓越大学院プログラムを履修していて、農学系が1人、工学系が3人です。
稲を研究している連合農学研究科生物生産科学専攻の千装公樹さんと、エネルギーの研究をしている生物システム応用科学府生物機能システム科学専攻の東谷拓弥さんは、研究分野とプロジェクトが深く関連しているので、研究で培った専門知識を農園モデルや実験系の構築に活かしていただいています。生物システム応用科学府食料エネルギーシステム科学専攻の章燕瀛嬌さんと私は、研究分野とプロジェクトとの関係性が他の二人ほど強くないため、自身の専門知識を活かせる機会はそれほど多くありません。そこで、章さんには、経費の管理などのプロジェクトの運営の部分で活躍してもらっており、私はプロジェクト全体の取りまとめや外部との交渉を担当しています。メンバーの専門性や性格を尊重し、それぞれの得意な部分を活動に活せるようにしています。
卓越大学院で学んだことや、大変だったことを教えてください。
卓越大学院では、申請書を書いて公募の予算や経費を獲得するために必要なスキルを実践的に学べることが魅力でした。私は、博士課程修了後に企業の研究者になりたいと思っています。卓越大学院での活動を通して、将来的に企業内のプロジェクトを発展させていく際に重要な思考法を会得することができたと考えています。
また、プロジェクトへの取り組みは、新しいところに一歩踏み出して他者とコラボしていく際や、チームをうまく運営していく際に役立つ経験になっていると思います。
大変なことは、自分の研究との両立です。
私は、生物システム応用科学府 食料エネルギーシステム科学専攻で、ナノテクノロジーの鍵となっている、ナノサイズの小さな粒子(ナノ粒子)に関連した研究に励んでいます。ナノ粒子はそのサイズの小ささに由来する優れた材料性能を有していますが、材料製造プロセスの過程でお互いにくっつきあって大きな塊になってしまうことが課題となっています。そこで、ナノ粒子をナノサイズのままで安定的に維持する手法を構築することを研究の目標としています。この研究が進んでナノ粒子を機能性材料として効果的に利用できるようになれば、例えば発電効率の高い太陽光パネルの電極材料を新たに製造できるようになり、社会に大きく貢献できます。微粒子工学は化学工学の一分野ですが、もともと実学に近い化学を学べる化学工学分野に興味があって農工大に入学したので、研究には大きなやりがいを感じています。
ただ、研究のための実験や、授業、プロジェクトの取り組み…と、様々な活動の両立には、とにかく時間が足りません。でも、限られた時間の中で予定を組む努力を続けてきたことで、効率よくスケジュールを立てる能力が自然に身につき、時間の使い方がうまくなったと感じています。
受験生に向けてのメッセージをお願いします。
1月、2月は受験の追い込みの時期だと思います。私も、受験生の頃、この時期は息が詰まって苦しかった覚えがあります。
もちろん勉強を継続して続けていくことも大切ですが、息抜きも大事です。
お気に入りの音楽を聴く、好きなお菓子を食べる、などの気分転換も大切にしていくことで、試験の時に心身ともにベストコンディションになるようにすると良いと思います。
これまで努力してきた自分のがんばりを信じて、受験に臨んでほしいですね。みなさん、がんばってください!
(2021年1月14日掲載)